発症の初期状況、病期の長さ、疼痛の性質などの特徴から弁証を進めていきます。
一般的に、外感頭痛の発病は急で病勢が激しい、臨床所見として、ひっぱられるような痛み(掣痛)・ズキズキした痛み(跳痛)・張って痛む(胀痛)・重だるい痛み(重痛)・痛みが継続するなどの特徴をもち、外邪にあたるたびに発症します。
内傷による頭痛は、発病は緩やかで痛みの程度は比較的穏やか、臨床所見として、シクシクとした痛み、空虚感を伴う痛み、くらくらとした痛みを呈し、痛みの程度は緩く長く続き、過労によって悪化しやすく、発症と寛解を繰り返します。
疼痛の性質を弁別することは病因の分析の一助となります。
実証の場合は、一般的に脹った感じの痛み(脹痛)・激痛になります。ひっぱられるような痛み・ズキズキした痛みの多くは陽気の過剰な亢進によるもので、火邪や熱邪が原因で生じるものです。重だるい痛みの病因の多くは痰湿です。痰湿に属した場合はクラクラとした痛み・意識がはっきりしない痛みになります。冷感を伴ったチクチクとした痛みは寒厥のために生じます。そして錐で刺したような痛みで痛む部位が一定なものは瘀血が原因です。痛みに伴って膨満感を感じる場合の多くは陽亢です。
虚証の場合は、一般的にシクシクとした痛みになります。シクシクして空虚感を伴う痛みの多くは精血の損傷によるもので、クラクラとしてめまいを伴う痛みの多くは気血の不足によるものです。これらの法則は他の疼痛にも共通します。
疼痛部位の弁別は病因や病邪の所在(臓腑か経絡か)を理解するのに役立ちます。
一般的に、気血不足や肝腎陰虚の方の多くは頭部全体が痛みます。陽亢の方は後頭部、多くは頸部の筋肉にかけて痛みます。寒厥が原因の方は頭頂部、肝火が原因の方は両側頭部が痛みます。経絡の視点から見ますと、前頭部は陽明経、後頭部は太陽経、側頭部は少陽経、頭頂部は厥陰経に分類されます。
過労・七情内傷・性生活の不摂生などが誘因の場合、多くは内傷、すなわち気血や陰精が不足したために発症します。気候の変化に起因するものの多くは寒湿が誘因です。情緒の不安定などにより悪化する場合、多くは肝火と関連して考えます。飲酒や暴食により悪化する者の多くは陽亢です。外傷があった場合の痛みは瘀血に分類されます。
『医碥・頭痛』によれば、頭痛の治療は内外虚実を弁えるべきと強調しています。外感に起因するものは実に属し、その治療は邪気を取り去り、経絡の疎通を中心に治療を施します。この場合、邪気の性質の違いによって、袪風・散寒・化湿・清熱などの方法を使い分けます。内傷に起因するものの多くは虚証であるため、治療は虚を補うことが要になります。その虚の場所を見極め、益気昇清・滋陰養血・益腎填精を使い分けます。もし、風陽上亢に起因する場合は、上亢した風陽を下げるために、熄風潜陽を用います。痰飲や瘀血のため経絡の流れが阻害された場合は、化痰活血を図ります。虚実が入り混じった虚実夾雑の場合は、正気を高めながら邪気を取り除く扶正袪邪を図ります。
本方剤において、川芎(センキュウ)、羌活(キョウカツ)、白芷(ビャクシ)、細辛(サイシン)は風寒を発散させ、経絡を通し、止痛の役割を果たします。そのうち、川芎は血中の気を巡らし、血に停滞する風邪を取り除き、頭部や目に行き渡らせ、外感頭痛の要薬の位置づけとなります。薄荷(ハッカ)・荊芥(ケイガイ)・防風(ボウフウ)は上行して昇散し、川芎・羌活・白芷・細辛の疏風止痛作用を助けます。苦寒の性をもつお茶を注ぎ服用することで、諸風薬がもつ温燥の性を調節します。最終的に疏風散寒・通絡止痛の作用を成し遂げます。
鼻づまり・鼻水がある場合は、蒼耳子(ソウジシ)・辛夷(シンイ)を用いて散寒通竅を図ります。項や背部が強ばって痛む場合は、葛根(カッコン)を加えて疏風解肌を図ります。悪心・膩苔の場合は藿香(カッコウ)・半夏(ハンゲ)を用いて和胃降逆を図ります。頭頂部痛は藁本(コウホン)を加え、袪風止痛を図ります。もし、頭頂部が激しく痛み・からえずき・涎を吐き・四肢厥冷・苔白・脈弦の場合は、寒犯厥陰と称し、治療は厥陰の寒邪を温散させることを目標とします。方剤は呉茱萸湯(ゴシユトウ)に半夏(ハンゲ)・藁本(コウホン)・川芎(センキュウ)の類を加え、呉茱萸を以って肝と胃を温め、人参(ニンジン)・生姜(ショウキョウ)・大棗(ダイソウ)をもって助陽補土を図り、陰寒の上への干渉を防ぎ、方剤全体で協同し、温散降逆の効能を収めます。
本方剤において、川芎・白芷・菊花・石膏は主薬となり、疏風清熱を図ります。川芎・白芷・羌活・藁本は善く頭痛に効きますが、その性は辛温に偏るため、菊花と石膏を配伍させ、その温性を辛涼性に変化させ、最終的に疏風清熱を果たして頭痛を改善します。
風熱が甚だしい場合は、羌活・藁本を取り除き、代わりに黄芩(オウゴン)・山梔子(サンシシ)・薄荷(ハッカ)を用いて辛涼清熱を図ります。発熱が甚だしい場合は、金銀花(キンギンカ)・連翹(レンギョウ)を用いて清熱解毒を図ります。熱が盛んで津液が損傷された場合(熱盛津傷)は、舌紅少津の所見が現れるので、知母(チモ)・石斛(セッコク)・花粉(カフン)を用いて清熱生津を図ります。便が乾燥して便秘・口や鼻の粘膜にできもの・六腑の気が不通になったものは、黄連上清丸(オウレンジョウセイガン)を合わせて用いることにより、苦寒を以って上逆した火を降ろし(苦寒降火)、六腑の気を通し、熱を外へ排出します。
本方剤は表位にある湿気のために生じた激しい頭痛頭重の証を治めるものです。湿邪は表位にあるため、羌活・防風・川芎・藁本・蔓荊子(マンケイシ)などを以って袪風勝湿・湿去表解が作用し、清陽の気がスムーズに巡るようになり、頭痛と体のだるさが寛解されます。甘草(カンゾウ)は諸薬の辛甘の性を発散させるとともに諸薬を調和させます。湿濁中阻の場合は、所見に胸のムカムカと食欲不振、下痢が見られます。蒼朮(ソウジュツ)・厚朴(コウボク)・陳皮(チンピ)などの燥湿薬を用いて、中焦の気をなだめる(寛中)ことができます。悪心・嘔吐がある場合は、生姜(ショウキョウ)・半夏(ハンゲ)・藿香(カッコウ)などの芳香剤をもって湿濁を化し、逆気を降ろし吐き気を止めます(降逆止嘔)。身熱があり十分に発汗できず、胸部不快感(胸悶)と口渇が現れた場合は、暑湿が原因と考えます。清暑化湿が良く、黄連香薷飲(オウレンコウジュイン)に藿香(カッコウ)や佩蘭(ハイラン)などを加えて用います。
本方剤は平肝潜陽熄風に重点をおき、肝陽上亢または肝風内動に起因する頭痛証のいずれにも効果を発揮します。方において、天麻(テンマ)・鉤藤(コウトウ)・石決明(セッケツメイ)を以って平肝潜陽を図ります。黄芩(オウゴン)・山梔子(サンシシ)を以って肝火を清めます。牛膝(ゴシツ)・杜仲(トチュウ)・桑寄生(ソウキセイ)を以って肝腎を補います。夜交藤(ヤコウトウ)・茯神(ブクシン)を以って養心安神させます。臨床では、更に竜骨(リュウコツ)・牡蠣(ボレイ)を加え、重鎮潜陽を強めることもできます。症状は早朝より夕方に強く・疲れがたまると悪化・脈は弦細、舌質は紅、苔は薄く、津液が少ない肝腎陰虚の場合、生地黄(ショウジオウ)・何首烏(カシュウ)・女貞子(ジョテイシ)・枸杞子(クコシ)・旱蓮草(カンレンソウ)などを以って、肝腎を滋養します。甚だしい頭痛・口が苦い・胸脇部の痛みを伴う肝火が旺盛のものは、鬱金(ウコン)・竜胆(リュウタン)・夏枯草(カゴソウ)を以って清肝瀉火を図ります。火熱が甚だしい場合には、竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)を用いて肝火を清降させてもよいです。
本方剤は滋補腎陰に重点をおき、熟地黄(ジュクジオウ)・山茱萸(サンシュユ)・山薬(サンヤク)・枸杞子(クコシ)を以って、肝腎の陰を滋補します。人参(ニンジン)・当帰(トウキ)を以って、気血の両方を補います。杜仲(トチュウ)は益腎し、腰を強くします。足腰の弱りには、続断(ゾクダン)・懐牛膝(カイゴシツ)を以って足腰を強化します。遺精やおりものがある場合は、蓮鬚(レンシュ)・芡実(ケンジツ)・金桜子(キンオウシ)を以って、収斂固摂を図ります。病情が回復傾向にある場合は、杞菊地黄丸(コギクジオウガン)や六味地黄丸(ロクミジオウガン)を服用して腎陰を補い、肝陽を潜ませ、治療効果を維持させることができます。
頭痛かつ寒がり、顔色が白く、四肢が温まらず、舌質が淡い、脈は沈細かつ緩の場合は、腎陽不足に属します。右帰丸(ウキガン)を用いて腎陽を温補し、精と髄を填補します。寒邪を外感した者には、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)を投与して寒を散らし、裏を温め、表裏ともに治療します。
本方剤は四君子湯(シクンシトウ)を以って健脾補中益気を図り、四物湯(シモツトウ)を以って腎を補い、血を養います。肝経に入る菊花(キッカ)・蔓荊子(マンケイシ)を適宜加えることで、標治の清頭明目を図り、標本ともに治療することで治療効果を高めます。
本方剤は健脾化痰、降逆止嘔、平肝熄風の効能を有します。半夏(ハンゲ)・生の白朮(ビャクジュツ)・茯苓(ブクリョウ)・陳皮(チンピ)・生姜(ショウキョウ)を以って健脾化痰・降逆止嘔を図り、痰濁が取り除かれれば陽気が昇り、頭痛が緩和されます。天麻は平肝熄風の効能を持ち、頭痛やめまいの要薬です。
運脾燥湿のために、厚朴(コウボク)・蔓荊子(マンケイシ)・蒺藜子(シツリシ)を加えてもよいです。痰鬱化熱が顕著な場合は、竹筎(チクジョ)・枳実(キジツ)・黄芩(オウゴン)を加えて清熱燥湿を図ります。
方剤の生薬、麝香(ジャコウ)・生姜(ショウキョウ)・葱白(ソウハク)は温通竅絡を図ります。桃仁(トウニン)・紅花(コウカ)・川芎(センキュウ)・赤芍(セキシャク)は活血化瘀を図ります。大棗(ダイソウ)だけ甘緩扶正し、化瘀における正気の損傷を防ぎます。鬱金(ウコン)・菖蒲根(ショウブコン)・細辛(サイシン)・白芷(ビャクシ)を適度に加えることにより、理気宣竅・温経通絡を図ります。甚だしい頭痛の場合は、全蝎(ゼンカツ)・蜈蚣(ゴショウ)・䗪虫(シャチュウ)などの虫類薬を以って風邪を収逐し、活絡止痛を図ります。病期の長い気血不足の場合は、黄耆(オウギ)・当帰(トウキ)を加えて、活絡化瘀の力を助けます。
上記の各証の治療では、経絡の循行に基づき、相応な薬を引経薬(処方中の生薬の薬効をまとめて一緒に、経絡を通してある特定の部位に運んでいってくれる役割を持つ薬)として加えることで、著効を得ることができます。一般的に、太陽頭痛には羌活(キョウカツ)・防風(ボウフウ)を加えます。陽明頭痛には白芷(ビャクシ)・葛根(カッコン)を加えます。少陽頭痛には川芎(センキュウ)・柴胡(サイコ)を加えます。太陰頭痛には蒼朮(ソウジュツ)を選択します。少陰頭痛には細辛(サイシン)を用います。厥陰頭痛には呉茱萸(ゴシュユ)・藁本(コウホン)等を用います。
このほかに、臨床では雷が鳴るような大きな音とともに頭部や顔面部に結節が生じ、憎寒(外に悪寒が起こり、内に煩熱がおこる症状)や壮熱(39℃以上の高熱が続くもの)を伴う頭痛に遭遇する場合があります。これを「雷頭風」といいます。湿熱毒邪が上に突き上げることによって、清竅(頭部にある7つの竅)に関与したために生じたものです。清震湯(セイシントウ)に薄荷(ハッカ)・黄芩(オウゴン)・黄連(オウレン)・板藍根(バンランコン)・白僵蚕(ビャクキョウサン)などを加えて清宣昇散・除湿解毒を図りながら治療します。
さらに偏頭風という病名があり、別名偏頭痛とも言います。俄かに発症し、甚だしく激痛を伴います。左もしくは右側頭部に発症し、目や歯まで響きますが、一旦痛みが治まると健常者と変わらなくなります。不定期に反復して発作し、その多くは肝経の風火が原因です。天麻鈎藤飲(テンマコウトウイン)または羚角鈎藤湯(レイカクコウトウトウ)を用いて治療できます。