身体が持つ症状を、特殊な診察法を使い根本の原因から探り、漢方薬・鍼灸スイナを使い調整し治療と予防をする中国伝統医学です。
中医の特徴の1つは、その「整体観念」にあります。
「整体観念」とは、人体は自然から影響を受ける存在であり、また人体内部でもさまざまな部位が影響し合っている存在であるという考え方です。
また、治療理論である「弁証論治」がもう1つの特徴です。
「弁証論治」とは「四診」と呼ばれる診察技術を通じ、患者さんそれぞれの症状の原因や発病のプロセス(病因病機)を分析して証を決定し、それにあった適切な治療法則を決め、漢方薬・鍼・灸などを用いた治療をします。
日本でいうところのいわゆる漢方薬は、元々は紀元前後の頃に中国で生まれ受け継がれてきた伝統医学における薬物のことで、中国では「中薬」、朝鮮半島では「高麗薬」と称され、さまざまな天然の植物・鉱物・動物由来の生薬を複数配合して構成されています。
何千年という長い年月をかけて行われた治療経験によって、どの生薬を組み合わせるとどのような効果が得られるか、また有害な事象がないかなどが確かめられ、現在漢方処方として体系化されています
漢方薬の運用は、四診(望診・問診・聞診・切診)により様々な弁証法を用いて患者さん一人ひとりの体質に合った薬を選び処方します。
漢方薬(方剤)名には、次のようなものがあります。
「湯」が最も多く、「散」など煎じて薬液として服用するものが8割以上を占めています。
他にも「雪」の付く、口に含ませると自然に溶けて吸収される薬などがあります。
漢方薬とは本来、天然の植物、鉱物、動物等が原材料になっている生薬を複数組み合わせ、それらを煎じて煮汁を服用するもので、これを煎じ漢方薬または湯液とも呼びます。また、これらの成分を抽出し、加工して顆粒など飲みやすい形にしたものがエキス製剤です。現在、日本の医療保険が使えるエキス製剤として148類の漢方製剤が指定されています。市販で手に入るエキス製剤を加えるとさらに多くの種類があります。
中国では現在でも煎じ薬で飲むのが一般ですが、日本ではエキス製剤が多く普及していることもあり、エキス製剤の服用を好む方が多いようです。ただし、エキス製剤は持ち運びなどの利便性が良い反面、個人の証に合わせて処方を調整するのが難しく、精油成分が粉末にする際に蒸発しやすいこと、また液体状態にて服用した方が消化器での吸収がしやすいことから、一般的にはエキス製剤より煎じ薬の方が効き目が早く、効果は強いといわれます。
このようなことから、煎じ薬は豆から挽いて入れるドリップコーヒー、エキス剤はインスタントコーヒーに例えられ、いずれも一長一短の特徴があります。
エキス製剤は、製薬会社により生薬を煎じて抽出したものを加工して作られており、患者さんの煎じる手間が省け、携帯しやすいよう工夫がされています。また、エキス製剤の品質は製薬会社の努力によって保証されているため、安定した作用が得られるのもメリットの一つです。顆粒タイプ以外に、細粒や錠剤、カプセル剤も作られています。
これらのメリットがある一方で、患者さんに合わせた生薬の加減ができないのが大きなデメリットとなっています。生薬がすでに決まった割合で製品化されているため、不要な生薬を除けず必要な生薬を加えることもできません。なお、製剤化されている漢方薬の種類にも限りがあることや添加物のアレルギーがある場合などは注意が必要です。
煎じ薬は煎じたての生薬なので薬効も良く、効果も早く現れやすいと言われます。個々の患者さんの体質・病状に合わせ、適切な効果を狙って生薬の配合を変更したり必要に応じて加減、調合することが可能な点や、自分で煎じることで漢方薬が本来持つ香りや、苦み、渋みなどの味を感じることができるのは大きなメリットの一つです。いわば、煎じ薬は寸法取りして注文するテーラーメイドの仕立て服のイメージです。
反対に飲みにくい、煎じるのが面倒、携帯するのが難しいといったデメリットもありますが慣れてしまえば処方の幅は広がり治療効果も高まるため、特に慢性疾患や悪性腫瘍など重病、難病でお悩みの方や根本からの体質改善を目指す方にも幅広くご利用いただけます。
傷寒論や金匱要略など古典に記載されている薬の煎じ方は複雑で、水の中へ投入する薬味の順序が決められているものや、いくつかの薬味を散じた後、煎じ終えた生薬を一旦取り除き、残りの薬を再度煎じる「抔」という方法など様々あります。しかし現在は次の様な煎じ方が一般的です。
薬膳とは、中国伝統医学(中医学)の理論に基づき、中医営養学と料理学などの相関知識を運用し、生薬や食べ物を正確に組み合わせて作られる食事また、それらを学ぶ学問のことです。薬膳では、「良薬口に苦し」とは反対に、色、香り、味、形のすべてが要求され、さらに長期に渡りおいしく食べられるという点が薬との大きな違いです。
薬膳では主に以下を目的としています。
「薬食同源」とは、薬物と食物はその源が一つであり、その理と効果が同じであることを言います。中薬(生薬)というものは、植物や、動物、鉱物であれ、皆自然界に存在するものです。
現在、日本で扱われている薬膳の多くは、「食養」を主としたものです。食養を主とした、特に家庭でもできる薬膳は中国において、決して大げさなものではなく、各家で親から伝えられるいわば常識のようなものです。日本にも例えば郷土料理など、代々伝わる料理は「食養」とも言えるでしょう。
最近の中国では「食療」を主体に研究されており、日本においても「食療内科」が脚光を浴び始めています。
食物の性能は何千年もの歴史のなかで、経験の積み重ねにより培われ、中医学によって理論化されたものです。中医学の理論を元に食物の働きをよく理解した上で、毎日の食事に生かし組み合わせを考えて調理すれば、普段の家庭料理でも立派な薬膳料理と言えます。
食べたときに人体がどう反応するのか示したものを五性といい、「寒・涼・温・熱・平」の5つに分類しています。温熱性のものは体を温め、新陳代謝を高めます。寒涼性のものは体を冷まし、鎮静、清熱作用があります。平性のものは寒熱どちらにも偏らないもので、中には滋養強壮作用を持つ物もたくさんあります。
食物の味とそのはたらきから、「酸・苦・甘・辛・鹹」の5つの味に分類しています。酸味は収、苦味は降、甘味は補、辛味は散、咸味は軟の作用があります。
謹和五味̶色々な味の食物をバランスよく摂取することが大切です。
①甘:補・和・緩に働き、滋補作用があるため、虚証に用いる。
味の食べ物は肥甘厚味に属するものが多く、過食すると痰湿を生じたり、気滞を引き起こします。また、淡味も甘味に属しますが、肥甘厚味には分類されず、滲湿利尿作用を持ち、体内の余分な水分を排出します。
②辛:散・行に働き、発汗解表・行気活血・散結の効能がある。表証や気滞・血瘀・食積・痰凝などの停滞を改善することができる。
風邪の初期:生姜、大根などを用いて、邪気を体表から駆逐します。
辛温性のものが多いため、体を温める作用も併せもち、また香辛料には脾胃の気機昇降をよくする働きもあり、食欲増進などにはたらきます。大量摂取や長期間の過食で体内の気血津液を消耗し、助火傷陰(体内に熱がこもり潤いを損失)を引き起こすことがあるため注意が必要です。大量に発汗した後や大出血したばかりの人には不向きです。
③酸:収・渋に働き、出すぎるものを収め、渋らせる効用がある。盗汗、下痢、多尿、遺精などの治療に用いる。渋味も同様の働きを持つ。
「酸甘化陰・酸苦湧泄為陰」と言われるように、酸味には生津作用があります。
「泄」とは理気・散結・利尿・活血・消食などの袪実邪作用を指します。
酢が健康に良いというのは、酸味の収斂と湧泄の双方向調節作用によるものですが、過食すると脾気を損傷します。
④苦:泄(降・瀉)・燥・堅に働き、清熱・瀉火・瀉下・燥湿・降逆などの効能がある。
熱証、湿証、気逆証に有益です。例えば、暑邪による夏バテに苦瓜炒め(寒性・苦味)→清熱。過食すると、陽気を損傷し、脾胃虚寒証を引き起こします。
⑤鹹:下・軟に働き、軟結・散結・瀉下の効能を持つ。
痰凝による瘰癧(リンパ腺の腫れ)、しこり・便秘などに用いられます。例えば甲状腺の腫れに貝類(ハマグリ、アサリ、カキなど)、鹹味、寒性により、清熱、やわらげる効果が期待できます。過食すると腎を弱めます。
花、茎など質が軽いものは上に上昇しやすく、根っこなど重いものは下は降下しやすい。
食べ物にはそれぞれ関係する経絡があります。複数の帰経を持つ食物は、様々な病変に良い効果をもたらすと言えます。
五行学説による、一般的な帰経は以下のとおりです。
五行学説に沿って臓腑にあてはまる食物の色を分類すると以下のようになります。
基本的には五色をバランス良く用いて、色とりどりの食事を摂ることが理想です。
独特の香りを持つ食物は少なくありませんが、香りも薬膳の大事なはたらきの一部分です。
「虚則補之、実則瀉之、寒則熱之、熱則寒之」
不足の部分を補い、過剰の部分を取り除きます。寒がりの体質には温め、暑がりの体質は冷まします。
日本人の多くは生野菜や生魚、冷たい飲料など季節を問わず摂る傾向にあり、また年間を通じて湿度が高いことから、余分な湿が体内に溜まり、体の冷えを訴える人が多く見られます。
色、香り、味、形のすべてが揃い、さらに長期に渡りおいしく食べられることや組み合わせの調和。
例えば、お刺身やお寿司にわさびや生姜を用いるのも、生もので体を極端に冷やすのを防ぐためです。
食べ物は本来丸ごと全てが体に役立つものです。ある部分のみを使用するのではなく、全体を使うことで栄養バランスをよく保ちます。
肝臓の悪い人にレバー、腎臓の弱い人にマメというように、養いたい臓腑と同じ臓腑や似た形状のものを用いて補い、治療する、という食物に対する東洋的な考え方もあります。
当帰生姜羊肉湯(最古の食療法)
春は四季の始まり、万物が生長発育の季節です。新緑が生え、生命力が涌いてくる季節です。五行説によると、春は木、青、風という自然の特徴があり、一語でいうと「生発」の季節です。この季節は希望を持ちながら、のびのびとしていることが一番望ましいです。
人体では肝・胆・怒に属し、春はイライラしたり、落ち着かなくなったり、情緒不安定になりやすい季節です。「五月病」はまさにそのものです。肝臓は抑制されることを嫌がり、伸びやかさを好む臓器です。楽観的、愉快な気持ちをもちましょう。また、太陽のリズムに従って、早起きの習慣を身につけましょう。散歩をしたり、ストレッチをしたり、伸びやかに体を動かすのがおすすめです。
春は目、筋の季節です。この季節は目の疲れを覚えたり、だるく感じたり、眠さを訴える人が増えます。次の夏の季節に向け伸び伸びと生長するためには、帽子を被らない、窮屈な衣服を着ないなど、体を締め付けないよう心掛けましょう。春は寒暖の差が激しく、体が慣れずに体調を崩しやすい季節です。衣服の加減に注意しましょう。中国では昔から「下厚上薄」といわれます。下半身は温かく、上半身は脱ぎ着しやすい恰好がおすすめです。また、春は風の季節でもあり、風邪や花粉症など外気の影響を受けやすいため、対策は早めに取っておきましょう。
春に採れる緑の旬のもの、例えば、小松菜やほうれん草、にらなどは常備しておきたい食材です。香りのあるものはリラックスさせたり、気を巡らせ気持ちを良くするはたらきがあるため、伸びやかに過ごしたい春は特に意識して摂りましょう。
冬は一年の中で最も寒い季節で、水は凍り、地はひび割れ、草や木が枯れ、動物の活動も静かになり、やがて冬眠の状態となります。つまり「閉蔵」=「たくわえる」季節です。
冬の体の特徴は、
また、生活習慣では早寝し、朝はゆっくり起き、保温する、極端な薄着は冷え症の原因にもなるため、避けましょう。働きすぎ、汗をかきすぎ、性生活をしすぎることなどは気を洩らすこととなり、「蔵」という原則に違反し、病気の種となります。極力注意しましょう。冬は体を養い、充電するのに最も適した季節です。秋冬養陰̶すっぽん、かき、羊肉、きくらげ、かに、鶏肉、種子類、根菜類など、滋養強壮のものを積極的に摂りましょう。また、中国では薬補と言って、冬は薬草スープを飲む習慣があります。よく使われる食材は、当帰、人参、黄耆、ナツメ、クコの実など補う食材から、山椒、八角、木香など体を温め、消化促進する香辛料まで種類は豊富です。体質や年齢、性別、持病などの症状に応じて、この季節を利用し体調を整えておくと良いでしょう。
北海道やモンゴルなど寒い地域でよく好んで食される羊肉は、食肉の中で最も身体を温める働きがあるためです。他にも、気を補う、血を増やす、腎に働きかけるなど、寒い地域以外でも冬の滋養強壮には大変おすすめの食材です。
さらに、真冬、春先はインフルエンザの流行期でもあります。
などの養生がおすすめです。
冬にしっかり「蔵す」ことで、次にやってくる春の「発」、夏の「長」、長夏の「化」、秋の「収」へとスムーズに季節の変化に応じて体も変化することができます。体を養うために、冬は重要な季節と言えます。
一年を通してみると、人は自然の中で生きているということ、自然の一部であるということを改めて感じると思います。季節のものを食べ、太陽とともに暮らしていくことで陰陽のバランスが整い、わたしたちの身体は養われるのです。